人格の香り


 芳村思風一語一会 vol.5879

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人格の香り

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「一流と二流を分けるもの」

鎌倉時代末期、有名な刀鍛冶、正宗の話。

弟子たちのなかで、一番優れた刀を鍛えた者を婿に取り跡を継がせようとした。

テストの結果、残ったのは村正と貞宗の2人。

最後に、この2人に勝負させた。

2人は鍛えた刀を師匠の正宗のところにもっていった。

正宗は、屋敷の中を流れる小川に、二人が鍛えた刀を立て、上流から藁を流した。


藁は、村正の刀に吸い寄せられるように寄っていき、

刀に触れるか触れないかの間にスパッと切れた。


貞宗の刀にも藁が流れていき、引っかかった。

引っかかったままで切れなかった。

正宗が貞宗の刀を流れから引き上げた。

藁は、はじめて切れて流れていった。


村正は「勝った」と思った。


しかし師の判定は異なり、貞宗の鍛えた刀が優れているとした。

跡継ぎは、貞宗になった。


村正の刀は、斬ろうとしなくても斬ってしまう。

貞宗の刀は、斬ろうという意思が働かさなければ斬れない。

斬ろうとしてはじめて斬れる。

これこそ武士の持つ刀にふさわしいと正宗は考えた。


武士は人を斬るために刀を持つのではない。

天下国家を治めるために持つのである。


村正も貞宗の刀鍛冶としては、一流である。

村正の刀は、斬れ味は鋭い。

斬ろうとしなくても斬ってしまう。

技術的な能力の冴えだけで鍛えられている。


貞宗の刀は、人間の意思が働いてはじめて斬れ味を発揮する。

いわば技術的な能力に、人格の香りといったものが加わっている。

これが、同じ一流でも刀の優劣の差になった。


技術的な能力だけではなく、

人格の香り

という微妙な価値を評価する哲学を備えていた正宗こそ

一流中の一流というべきでしょう。 


一流と二流の差とは何か。

一流であることの前提は、本物の人間であること。

本物の人間の3つ条件は、

1.不完全性の自覚からにじみでる謙虚さを持つ 

2.より以上をめざして生きる 

3.人の役に立つ存在になる


これば順序も大切です。

まず作為的ではない、にじみでる謙虚さを持つこと。

より以上をめざして生きるとは成長意欲をもつこと。

人間は不完全だから、完璧をめざす必要はないけれど、

完璧を意識しながら、永遠に成長し続けることができる。

成長とは、能力と人間性の両面である。


村正は、刀鍛冶としての能力は一流だった。

より以上をめざしてはいたが、能力を鍛えることに偏りすぎ、

謙虚さが希薄になっていた。

だから鍛える刀には、人格の香りがなかった。


一流と二流を決めるのは、自分ではない。

自分の価値は他人が決める。


一流と二流を決める物差しはあるが、

一流が良くて、二流がダメということではない。


二極的な生き方を突き抜ける。

たいせつなことは、自分の生き方答えを持ちながらも、

「これでいいのか」と問い続けること。

問いを持って生きろ。答えに縛られるな。


思風会通信「風の思い」 

2023.06.01 

 

やさしい笑顔と光がすべての方に届きますように・・・  

  


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